理想の仕事を追い求めよう

社長になる人にはどこかの時点でビジネスをやろう、と思った瞬間があるのではないだろうか。
 
振り返ってみると私の場合はグラフィックデザインの専門学校のときにそれがあった。
 
 
 
 
高校生、専門学生のときの私は今考えると屁理屈の得意な単なるごくつぶし野郎で、まともに働くことなんか考えたこともなかった。
 
正直言うとなぜ私が高校を卒業してグラフィックデザインの専門学校に入学したかと言えば、まだ働きたくないからという理由が大半だったのだ。
 
確かに私は高校時代もギャグマンガを描いて過ごしていたが、グラフィックが好きというよりはひとを笑わせたかったというだけの話だ。
 
当然専門学校でもふざけるほうが勝っており2年間を通じて大した作品を残すこともなく、先生に言わせると「専門学校の体験入学のときに作ったうちわが一番素晴らしかった」そうである。
 
 

 
 
そんな中で自分なりに非凡な活躍をした、と思えることが一つだけあってそれが「CI計画」という授業での事だった。
 
CI=コーポレート・アイデンティティのことで、企業のロゴやパンフレット、ユニフォームなどのデザインを通じてその企業らしさを表現するといった内容で、会社全体を統一した色やデザインでまとめることでビジュアル的にその企業を認知させるといったことを、実際にデザイナーとして活躍している講師から習う授業だった。
 
 
この授業の面白いところはただ教室で習うというだけではなく、5人一組くらいの班になってミーティングをし、ターゲットにする会社を1つ選定し、その会社のロゴデザイン案を作り、電話をしてアポイントをとり、実際に会社を訪問してプレゼンテーションをするというところだった。
 
私の班がターゲットにしたのは、仕出しや給食を作っている企業で、従業員、パートを合わせると300人くらいの規模の会社だった。
 
 
私は人見知りをしないという理由で班長に任命され、アポイントを取った。
 
所詮学生が授業の一環でプレゼンをするのに協力してもらうという事なので、重要視はされないだろうと思っていたのに、実際には部長クラスの人などが5人くらい臨席してくださり意外にちゃんとした場だったことを覚えている。
 
デザインは同じ班の女の子がしたが、それをプレゼンしたのは私で、「色が人に与える心理的な効果」とか「今現在の会社のデザインの問題点」とか「最近の企業ロゴのトレンド」みたいなことを得意げにしゃべった。
 
その場で話を聞いてくれていた社員の方はみんな、明らかにこの19歳の学生たちの話とデザインに引き込まれていた。
 
 
 
 
プレゼンテーションが終わった後には部長さんに「ちょっと上の人間に相談して、こちらからまた連絡させてもらいます。」という返事をもらった。
 
最終的には企業のロゴを変更するとなると、看板から車から印刷物からすべてデザイン変更しないといけないので、莫大な費用が掛かるため今回は見送りということになったが、この体験は私にとってとても刺激的だった。
 
 
自分がグループリーダーになり、自分たちが考えたデザインをプレゼンして心を動かし、実際に世の中にそれが影響を与える、これは何ごとにも代えられない体験だった。
 
 
 
 
俺は壁紙の職人として20代、30代を苦悩しながら全力疾走してきたが、40代になってやっとこの理想の仕事に近づけた気がする。
 
自分がデザインし、それをもって感動を与え、それを完成させる仕事ができるようになってきた。
 
今の仕事の原点はこの時の感動にあると最近思うのである。