アート入門

先日「ピカソは本当に偉いのか?」西岡文彦・著を読みました。

 

皆さんアートついてどのくらい理解できますか?

 

正直言って私はアートに関する本や雑誌を今まで読もうと思ったことが何度かありましたが、哲学的で何を書いているのかわからない文章だったり、評論家の熱意が強すぎて共感出来なかったりして(飲んでるのかと思う文章もしばしば)結局途中で断念した事ばかりでした。

 

しかしこの西岡文彦さんの書かれている内容は芸術家というものを単なる夢想家としてではなく経済的な面からもわかりやすく書いてくれており、読んで腑に落ちた事がたくさんありました。

 

これは是非ブログにしたいと思ったので拙いながらも今回書いてみる事にします。

(アートに詳しい人からすれば異論反論たくさんあるかもしれませんが、ご容赦ください。)

 


 

ピカソは美術史上最も経済的成功を収めた画家だったと言います。

 

我々が現在アーティストとして成功している、と言われたら自然に考えることは「さぞや儲かってるな」ということではないでしょうか。(私だけでしょうか?)

 

しかしこれこそピカソ以降のアーティスト観なのではないでしょうか?

 

かの有名なダビンチにせよ、ミケランジェロにせよ、モネにせよ、ゴッホに至っては言うまでもなく画家としての経済的な成功とは無縁だったそうです。

 

 
 
 
●画家は芸術家ではなく業者だった。

 

そもそも画家というものは昔から自分の描きたいものを自由に描いていたわけではなく、教会から受けた依頼で宗教画を書いたり、王の肖像画を描いたりしていたのであって、スポンサーが賃金を払って絵の技術があるものに描かせていたわけです。

 

これは今でいう職人に近いと思いませんか?

 

言ってみれば絵の上手い評判の職人が当時非常に権威ある「教会の建築」という公共工事において、賃金を貰って壁画などを描いたわけです。

 
 

 

●画家の仕事を変えた事件①(宗教改革)

 

そののち宗教改革によって起こったプロテスタント派が偶像崇拝にあたる宗教美術を否定し、画家は神をモチーフにした絵を描くことが減り、教会という大きなスポンサーを失っていきます。

 

その後台頭してきたのが画商という職業人で、彼らは教会や王侯貴族に変わって浮上してきた新しい富裕層向けに絵画の販売をしていったわけです。

 

彼らは絵画というものを、スポンサーに依頼されてから描かせるものではなく、沢山ある商品の中で気に入ったものを購入してもらうというスタイルに変えました。

 

 画家はこの事によって風景画や静物画などの世俗的な題材を描くようになります。

 

 
 
 
●画家の仕事を変えた事件②(フランス革命)
 
 
フランス革命はそれまでの絶対的支配者である王侯貴族を倒すことを目的としていましたが、革命の成功によって、画家はもう一つのスポンサーである王侯貴族をも失っていきます。
 
 
必然的に一般向けに絵画を販売する画商と画家とのつながりはより強くなっていきます。
 
 
フランス革命の影響は美術館の出現という意味でも大きなものでした。
 
 
それまで王侯貴族のために飾られていた美術品は美術館の出現により一般に開放され、市民の鑑賞の対象になりました。
 
 
この美術館の誕生は画家が絵を描く目的を変化させていきました。
 
 
それまで絵画は実用的な目的のために描かれました。
 
 
聖書のストーリーを伝えるための宗教画、王の権威を示すための肖像画、市民の部屋を飾るインテリアとしての風景画、そういう実用目的に合わせた絵画ではなく、ただ単に美術館に陳列し鑑賞するための絵画に目的が変わったということです。
 
 
画家は美術館に陳列されること自体を目的にして絵を描くようになりました。
 
 
著者の言葉によると「美術が、実用性というものを軽蔑し始めたのはこの時からのことだったのです。」となります。
 
 
 
 
 
●画家の仕事を変えた事件③(カメラというテクノロジー)
 
 
西洋の絵画というのはもともと「いかにリアルに描くか」を競ってきたわけです。
 
 
そのための遠近法であり、日本の美術のような線画ではなく陰影によって立体を表現することをやってきたわけですが、ここにカメラというテクノロジーが発明されます。
 
 
画家は当然「今後絵画は必要なくなるのではないか」という風に考え始めます。
 
 
そこから生まれたのが、写実的な描写を捨て、より人間的な表現を絵画に持たせるという印象派の作品です。
 
 
その後さらに発展して独自の個性や主義主張が絵画によって表現されるようになるのです。
 
 
 
 
 
●画家の仕事を変えた事件④(アメリカ経済の隆盛)
 
 
印象派の作品は今日でこそ芸術として評価されていますが、当初ヨーロッパでは「粗雑な前衛絵画」としか受け止められていませんでした。
 
 
当然描いた絵は画商には二束三文でしか売れません。
 
 
ところが印象派の評価が上がるに比例して絵画の値段が吊り上がっていくわけですから、画商としては「前衛絵画はいったん当たれば巨額の利益を生み出す」という絵画投資ビジネスが出来上がるわけです。
 
 
この印象派ブームに経済大国に仲間入りしたばかりのアメリカマネーが流れ込み、絵画市場は爆発的に拡大します。
 
 
 
 
●ピカソ登場
 
 
そしてピカソの登場です。
 
 
ピカソの絵は最初から投資目的で買われた絵画でした。
 
 
ピカソはデビュー当初から印象派ブームの次にくる前衛画家として期待するに十分な実力と風格を持った画家であり、絵画の投資グループからも主力購入商品とみなされるようになりました。
 
 
したがってそれまでの画家とは違い貧乏絵描き時代というものはほとんど経験していません。(ただしこのころのピカソの作品は基本的に写実的で、のちのちの破天荒な作品ではありません。)
 
 
そして経済的な成功を収めた後に絵画史を根底から覆すことになった最大の実験作「アヴィニョンの娘たち」を発表することになるのです。
 
 
 
 
このような歴史的経緯がわかっていれば、ピカソの芸術自体が良くわからなくても、なぜ現代芸術は理解に苦しむものが多いのか、ピカソの登場で芸術という概念がどう変わったのかなどがわかってくるのではないでしょうか?
 
 
 
そして次の時代にはどのような芸術があらわれるのか、そんなことを考えてみるのもいいかもしれませんね。